文章は思っているより伝わってない

報告書やチャット、メールなどテキストベースのやり取りで、思わぬ誤解を生んでしまったことはないだろうか?
公益財団法人 日本漢字能力検定協会が2022年に実施した調査では、会社で上司の立場にある人420名を対象にアンケート調査を行った。その際、「部下の作成した文章にストレスを感じたことがありますか」という設問において、およそ85%の回答者が「ある」または「ややある」と回答している。私たちは自分で思うよりも読み底にストレスを与える文章を書いてしまっているのかもしれない。
部下の作成した文章にストレスを感じたことがありますか。(n=420/単一回答)
引用元:公益財団法人 日本漢字能力検定協会プレスリリース『上司の 85%が「部下の文章にストレスを感じる」指摘を受ける部下の声、最多は「納得できない」【漢検意識調査】文章に関するやり取りで発生するストレスや不満が明らかに』
誰しもが少しでも伝わりやすい文章を書こうと努めているのに、なぜ誤解を生んだり、わかりづらいと思われる文章になってしまうのだろうか。今回は文章のわかりにくさの原因と解決策について、良い例文と悪い例文を交えながら解説する。
これを読めば、あなたが作る文章は明日から劇的に読みやすくなる!

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結論:6つのポイント
最初に次のとおり結論をまとめる。文章が誤解を生んだり、わかりづらいと言われたりしないようにするポイントが6つある。
それらはさらに、語句の配置に問題がある場合と、語句の選定に問題がある場合に大別できる。
- 語句の配置による問題
- 主語と述語を近づける
- 修飾語を被修飾語の直前におく
- 修飾語が2つある場合は長い方を先に書く
- 語句の選定による問題
- 難解な言葉を使わない
- 広い意味を持つ動詞を言い換える
- 誤字脱字・用語用法を確認する
語句の配置による問題

- 主語と述語を近づける
- 修飾語を被修飾語の直前におく
- 修飾語が2つある場合は長い方を先に書く
主語と述語を近づける
主語と述語の距離が遠いと、読者は文の構造を把握するのに時間がかかり、意味を理解しづらくなる。途中に修飾語や挿入句が多く入ると、述語がどの主語に対応しているのかを見失いやすくなり、可読性が低下する。また、一文の冗長性を誘発することにも繋がる。
主語と述語が離れていることのデメリット
- 項目間の関係性がわかりにくくなる場合がある
- 逃げとして安易に使ってしまいがち
一方で、主語と述語を近づけることで、文の骨格が明確になり、読者はスムーズに理解できる。特に、ビジネス文書や報告書では、結論を素早く伝えることが重要であり、主語と述語の距離を短くすることで、論理的で分かりやすい文章になる。
当社は来年度のサービス向上に向けて、より良い顧客対応を実現するためのサポート体制の強化を目指し、その一環ともいえるカスタマーサポートに関する意識調査を今回実施した。
「当社は」が主語であるが、述語である「実施した」が遠く、読みづらい。
当社はカスタマーサポートに関する意識調査を実施した。これは来年度のサービス向上に向けて、より良い顧客対応を実現するためのサポート体制を強化するためであり、本調査はその一環である。
このように修正すると、「当社は 実施した。」 という構造が早々に読み手が理解できる。その上で、詳細な準備内容は2文目に分けて整理し、読みやすくした。
このように、主語と述語の距離を短くし、論理的で分かりやすい文章にしよう。
修飾語を被修飾語の直前におく
修飾語が離れていると、読み手はどの語を修飾しているのかを推測しながら読む必要があり、意味の把握に時間がかかる。特に長い文章では、途中で別の情報が挟まると、修飾の関係が曖昧になり、誤解を招く恐れがある。
修飾語と被修飾語が離れていることのデメリット
- 修飾語が係る先を予想しながら読むストレスが発生する
- 誤った修飾先でも文章の意味が通ってしまうと、読み手に誤解を招くリスクがある
一方で、修飾語を被修飾語の直前に配置すれば、文章の流れが自然になり、余計な負担をかけずに伝えたい情報を明確に伝えることができるため、可読性が向上する。
この時期の人事課は、毎日のように就活生が書いたエントリーシートを、読まなくてはなりません。
この時期の人事課は、就活生が書いたエントリーシートを、毎日のように読まなくてはなりません。
悪い例では、「就活生が毎日のようにエントリーシートを書く」にも「人事課が毎日のようにエントリーシートを読む」にも読めてしまう。
文脈を鑑みればどちらの解釈が適切かわかるとはいえ、悪い例の方では、読みやすさは明らかに低下している。
一方良い例では、修飾語「毎日のように」を、本来係るべき被修飾語「読まなくてはなりません」の直前に置いているため、迷いようがない。
修飾語が2つある場合は長い方を先に書く
修飾語が2つある場合、長い方を先に書くことで文章の流れが自然になり、読みやすくなる。短い修飾語を先に置くと、先にある短い修飾語が何に係っている先が判別しづらくなる。
次の例文は、ITエンジニアについて説明する場合の例である。前提条件として、そのエンジニアは①優秀であり、その優秀さは②金融系システム開発経験が豊富なことに裏付けられているとする。

優秀な金融系システム開発経験の豊富なITエンジニア
金融系システム開発経験の豊富な優秀なITエンジニア
悪い方の例では、「優秀な」という修飾語が「金融系システム」という名詞に係っても意味が通ってしまう。その結果、書き手が意図していない情報のイメージが読み手の頭に形成される。
この例からわかるとおり、先に長い修飾語を書き、後から短い方を書いた方が読み手に迷いを与えない。
修飾語が2つあるときは、先に長い方を配置し、後から被修飾語の直前に短い方の修飾語を配置しよう。
語句選定の問題

- 難解な言葉を使わない
- 広い意味を持つ動詞を言い換える
- 誤字脱字・用語用法を確認する
ここまでは、語句の配置によって生じる問題について解説してきた。ここからは、語句の選び方そのものによって生じる問題にスポットを当てる。
語句の意味を読み手が理解できないのでは、当然、文章を介した円滑な意思疎通は実現し得ない。語句の理解に負担がかかっていると、内容の本質を捉える前に読み疲れてしまい、伝えたい情報が十分に伝わらない可能性が高くなる。
難解な言葉を使わない
難解な語句を多用すると、読み手は意味を推測しながら読む必要があり、理解の負担が増す。特に、専門用語や抽象的な表現を多用すると、読者の知識レベルによっては誤解を招くこともある。
また、"難解である"とは、必ずしも難しい単語の使用に限ったことではない。難解な言葉を書いてしまう原因には、次の3つがある。
- 難しい単語や専門用語
- 抽象的な表現
- 冗長な敬語表現
これらが必ずしも悪というわけではなく、読み手の知識レベルや状況にもよるが、意図せず多用してしまうのは避けたい。明確で簡潔な言葉を使うことで、意図が正しく伝わり、より効果的なコミュニケーションが可能となる。
協業提案のメッセージを例文として、良い例と悪い例を見てみよう。
貴社との協業のもと、業務運営の円滑化と組織的統制の強化を目的とし、持続可能な事業展開を視野に入れた包括的な枠組みの再構築を図る所存でございます。
殊に、弛まぬ精査を経た実証的手法を基盤とし、可変的かつ柔軟性を有する業務遂行体制を醸成すべく、内在する潜在的課題を顕在化し、逐次改善を施していくことが肝要と考えております。
貴社と協力しながら業務の効率化と組織の強化を目指し、長期的な事業成長に向けた仕組みを再構築したいと考えております。
特に、具体的なデータに基づいた柔軟な運営体制を整え、現状の課題を明確にしながら改善を進めることが重要と考えます。
この例文の改善ポイントは次のとおりである。
- 難解な表現を簡易化した
- 「組織的統制の強化」→「組織の強化」
- 「持続可能な事業展開を視野に入れた」→「長期的な事業成長に向けた」
- 「包括的な枠組みの再構築を図る所存」→「仕組みを再構築したい」
- 抽象的な表現を具体化した
- 「弛まぬ精査を経た実証的手法」→「具体的なデータに基づいた」
- 「可変的かつ柔軟性を有する業務遂行体制」→「柔軟な運営体制」
- 「内在する潜在的課題を顕在化し、逐次改善を施していく」→「現状の課題を明確にしながら改善を進める」
- 冗長な敬語表現を削除した
- 「密なる意思疎通を図り」→「十分に話し合いながら」
- 「相互扶助の精神のもと」→「互いに協力し」
- 「緻密な検討を重ねながら推進してまいりたく存じます」→「具体的な計画を立てて進められればと思います」
広い意味を持つ動詞を言い換える
広い意味を持つ動詞を具体的な言葉に置き換えることで、文章の明確さが向上し、読者に意図が正確に伝わる。
例えば、「このツールを使う」では曖昧だが、「このツールを導入する」「このツールを操作する」とすれば、用途や動作のニュアンスが明確になる。
ツールを使う
- ツールを導入する
- ツールを操作する
同様に、「資料を見る」を「資料を閲覧する」「資料を精査する」とすると、行動の具体性が増す。広義の動詞は便利だが、具体的な表現を選ぶことで、文章がより的確でわかりやすくなり、誤解を防ぐ効果がある。
資料を見る
- 資料を閲覧する
- 資料を精査する
このように、広い意味を持つ動詞を具体的な言葉に置き換え、より具体性が高く、ニュアンスをイメージしやすい文章にしよう。
誤字脱字・用語用法を確認する
ビジネス文書や公式な文章では、適切な言葉遣いが求められる。しかし、言葉の意味を曖昧なまま使ってしまうと、読み手に誤解を与えたり、文章全体の信頼性を損ねたりすることがある。そのため、用語の正確な意味や適切な使い方を確認することが重要だ。
文章を書いた後、誤字脱字には注意して推敲しよう。誤字脱字が残ったままだと、次のようなリスクがある。
誤字脱字・用語用法の誤りを残したままにするリスク
- 読み返しや推測など、読み手にストレスを与える
- 読み手が事実を誤認してしまう
- 書き手への信頼性損失に繋がる
書き手が信頼を失うと、どんな文章も説得力がなくなってしまう。
重要なのは、徹底的に調べることと、人やAIに聞くことだ。
徹底的に調べる

誤字脱字を調べる方法と、用語用法を調べる方法をそれぞれ具体的に解説する。
誤字脱字を調べる方法
基本的には、自分で読み返したときの違和感をキャッチアップすることと、校正ツールを活用することが有効だ。
- 文章を一度寝かせてから見直す
書いた直後ではなく、時間を置いてから読み返すことでミスに気づきやすくなる。 - 音読して確認する
声に出して読むことで、不自然な箇所や抜けている言葉に気づきやすくなる。 - ツールやソフトを活用する
Wordのスペルチェック機能や、オンラインの文章校正ツールを使う。 - 印刷して紙で確認する
画面上では見逃していたミスも、紙にすると発見しやすくなる。 - 入力ミスしやすい単語をリスト化する
自分がよく間違える単語を把握し、特に注意して確認する。 - 短い文章単位で確認する
一気に全体を見直すのではなく、段落ごとに細かくチェックする。
特に重要なのは、一度文章から離れ、寝かせた後に確認することだ。頭をリフレッシュしてから読むことにより、書いたときには気づかなかった初歩的な誤りに気づけることが多い。
用語用法を調べる方法
基本的には書籍やインターネットを通じて信頼性の高い情報を参照し、意味と用法を調べることが重要だ。
また、特に企業で働く人は、自社がこれまでどういう用語を用いてきたのか、内部資料からも洗礼を調査し、用語の統一をすることも信頼性を保つには重要だ。
- 辞書を引く
国語辞典・英和辞典・専門用語辞典などを使い、正しい意味と用法を確認する。 - 公的な文章や資料を参照する
官公庁や学術機関、業界団体が発行する文書を確認し、適切な使い方を学ぶ。 - 新聞・書籍・論文などの信頼できる媒体を参考にする
一流のメディアや専門書の用語の使い方を参考にすることで、誤用を防げる。 - 過去の文書と照らし合わせる
会社の公式文書や以前の資料と比較し、用語の統一性を確認する。 - 類義語との違いを調べる
似た意味の言葉と比較し、適切な文脈で使われているか確認する。 - 用語の由来を調べる
言葉の由来を知ることで、本来の意味や正しい使い方を理解しやすくなる。
人やAIに聞く

上司などの他者が校正することのメリットは次のようなものがある。
他者が校正することのメリット
- 書き手の思い込みによる見落としを防げる
書き手は、自分の文章を頭の中で補完しながら読んでしまい、誤字脱字や誤った表現に気づきにくい。他者の視点を入れることで、客観的にミスを発見しやすくなる。 - 読み手の視点での分かりやすさを確認できる
書き手にとっては伝わるつもりの表現でも、他者が読むと意味が曖昧だったり、誤解を招いたりすることがある。第三者のチェックを通じて、より分かりやすい文章になっているかを確かめることができる。 - 新たな視点からの改善点が見つかる
他者は書き手と異なる視点を持っているため、「より適切な言葉」や「別の伝え方」など、新たな改善のヒントを提供してくれることがある。
このように、他者のチェックを受けることで、誤字脱字の防止だけでなく、文章全体の質を向上させることができる。
用語用法については、専門用語や業界特有の表現であれば、詳しい人に尋ねるのが最も確実だ。経験豊富な同僚や専門家に相談することで、より適切な表現を学べる。
一方、近年進化が目覚ましい、Chat GPTなどのAIツールを活用するのも効果的だ。最近のAIは、文章の文脈を理解し、誤った使い方を指摘してくれるため、自分では気づきにくいミスを発見できる。
特に、見直しの時間が限られている場合や、客観的なチェックが必要なときには便利なツールとなる。
ChatGPTなどのAIは、回答を得られる速さが魅力!
⚠️ただし、どんどん進化はしているものの、間違った回答をされることもまだあるので、鵜呑みにはしないようにしよう!
生成AIを用いて用語用法を確認する際のコツ

AIを用いて確認する際の最大の懸念点は、回答が誤っているかもしれないこと。そのリスクを軽減する策として、信頼性の高い情報源を参照させ、参照先のURLを示させることである。
筆者の経験上、この工夫により劇的に回答に対する信頼性が高まったことを実感している。ぜひ、次に記載しているプロンプトの例を参考に、実践してみてほしい。
【プロンプトの例】
次の文章について、誤字脱字や、用語用法の誤りがないか、添削してください。
なお、回答作成にあたっては、〇〇など、信頼性の高いサイトを参照してください。参照した場合は、回答の末尾にURLを記載してください。
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(校正してほしいテキストを貼り付ける。または、文書ファイルを添付する。)
文章の質を高めるためには、言葉の正確な使い方を意識し、適宜確認することが重要だ。「この表現で本当に合っているか?」と不安に感じ、自分で調べられる範囲では判断が難しい場合は、ぜひ人やAIの力を借りてみよう。
そうすることで、誤解のない、伝わりやすい文章を作ることができる。
まとめ

わかりやすい文章を書くためには、語句の配置と選定に気を配ることが重要である。本記事では、誤解を生まない文章を書くための6つのポイントを解説した。
語句の配置に関するポイント
1. 主語と述語を近づける
主語と述語の距離が遠いと、読者が文章の構造を把握しにくくなる。主語と述語をできるだけ近づけることで、論理的で分かりやすい文章になる。
2. 修飾語を被修飾語の直前におく
修飾語が離れると、どの単語を修飾しているのか不明確になる。修飾語は被修飾語の直前に配置することで、誤解を防ぐことができる。
3. 修飾語が2つある場合は長い方を先に書く
短い修飾語を先に置くと、修飾の関係が曖昧になりやすい。長い修飾語を先に置くことで、自然な文章の流れを作ることができる。
語句の選定に関するポイント
4. 難解な言葉を使わない
専門用語や抽象的な表現は、読者の知識レベルによって誤解を生む可能性がある。簡潔で明確な表現を選ぶことが大切である。
5. 広い意味を持つ動詞を言い換える
「使う」「見る」などの広義の動詞を、より具体的な言葉に置き換えることで、文章の意図を明確に伝えやすくなる。
6. 誤字脱字・用語用法を確認する
誤字脱字があると、文章の信頼性が損なわれる。推敲を行い、ツールや第三者のチェックを活用してミスを防ぐことが重要である。
これらのポイントを意識することで、より伝わりやすく、誤解のない文章を書くことができる。文章はコミュニケーションの基盤であり、適切な配置と表現を心がけることで、読み手にストレスを与えず、円滑な情報伝達が可能となる。ぜひ明日から実践してみてほしい。