長文であることと冗長であることは違う

ビジネス文書は難しい。誰しも伝えたいことを簡潔に伝える文章を書きたいと願っている。
冗長な文章を書きたいと思って書いているビジネスマンはいない。しかしながら、書いているうちになぜか冗長で読みにくい文章になり、結局何が言いたいのかわからない文章を書いてしまう。
ビジネスは基本的に複雑である。様々な経緯や背景、前提条件、考慮すべき事情、関係者への配慮などが数多くあるため、ある特定の文書を書くにしても、書き手の頭の中には次々と言及すべき事柄が思いついてしまう。
それらは重要性の差はあれど確かに関係事項であるため、ある意味、ビジネス文書が冗長になってしまうのは当然なのだ。
伝える情報の取捨選択をし、シンプルな文章を書こうとよく言われる。皆それは大いに理解しているはず。
とはいうものの、ビジネスの実情として、何でもかんでもシンプルに表現できる物事ばかりではない。ある程度の文章の長さは許容しなければならない。
しかしながら、情報量が多く、長文になるとしても、少しでも読み手の認知負荷を軽減し、伝わりやすい文章にする努力は必要である。長文であることと、冗長であることとはイコールではない。
この記事を読めば、たとえ長文であっても冗長さを軽減できる2つの手法について理解することができ、情報量が多いながらも伝わりやすい文章が書けるようになるだろう。
悪い例文
まずは悪い例文を見てほしい。あなたは、こんな文章を書いてしまうことはないだろうか。
本日の会議では、参加者が少なかったものの、予定通り進めましたが、議論が長引いてしまい結論には至りませんでした。それによって、次回の追加ミーティングが必要となる見込みですが、スケジュール調整が難航しそうで、早めに決める必要があるため、できるだけ早く関係者と調整を進めるべきですが、担当者のスケジュールを確認しなければなりません。
もっとも全員の都合を考慮するとさらに時間がかかる可能性もあるため、どのように調整するのが最適かを検討する必要があると思いますし、会議の結論が先延ばしになると業務にも影響が出るため、何とか早めに調整を進めたいと思いますが、そのためには出席候補者の意見を聞きながら柔軟に対応する必要があると考えていますので、詳細が決まり次第改めて報告します。
読んでいて息切れしそうだ。どこで話が区切れるのかがわかりにくく、内容が頭に入ってこない。情報の取捨選択については本記事のメインテーマではないため、一旦傍に置いておく。しかしながらそれとは別に、この文章には、ある大きな問題がある。
これは、汎用性の高い接続詞を多用していることだ。
この問題に対する解決策は、次の2つとなる。
- 使用意図が明確な(≒汎用性の低い)接続詞に置き換える
- 勇気を持って文を「。」で区切る
この2つを改善するだけで、文章は格段に読みやすくなる。では、実例を用いてそれぞれ詳しく見ていこう。
1. 使用意図が明確な(≒汎用性の低い)接詞に置き換える

「が」「ですが」「けれども」といった接続詞は、順接(前の文と同じ流れを続ける)にも、逆説(前の文と反対のことを言う)にも使えるため、汎用性の高い接続詞だといえるだろう。便利である一方で、文章をわかりにくくする原因にもなり得てしまう。
この企画は課内ミーティングで評判の良かった案ですが、ぜひこのまま部長まで説明に上がりたいと考えています。
この文章は、"企画案が課内ミーティングでウケがよかったからその流れで部長にも説明したい。"という順説展開のはずである。
にもかかわらず、"ですが、"という本来は逆説展開に用いるべき接続詞でつないでいる。"ですが、"は汎用性の高い接続詞であるため、何となく使ってしまいがちである。
これでは、接続詞の箇所まで読んだところで、読み手が文脈を把握するのが遅れてしまい、困惑させてしまう。
そういった事情を鑑み、汎用性の高い接続詞は多用しない方が得策なのだ。そこで有効なのが、もっと限定的な接続でしか使えない、すなわち汎用性の低い接続詞に置き換えることだ。この改善例を見てほしい。
この企画は課内ミーティングで評判がよかったため、ぜひこのまま部長まで説明に上がりたいと考えています。
"ため" という順説でしか使えない接続詞に置き換えることで、課内ミーティングでウケがよかったことと、部長に説明に上がりたいという「理由 - 結論」の順説展開が適切に表現され、読み手に認知負荷を与えない。
特に、"が", "ですが" のような汎用性の高い接続詞を連発してしまうと、読者は「この部分は順接なのか?逆説なのか?」と毎回考えなければならない。これは無駄な認知負荷の発生が非常頻度に高くなってしまう。
これを踏まえて、先ほどの長文の一部を見てみよう。
できるだけ早く関係者と調整を進めるべきですが、担当者のスケジュールを確認しなければなりません。
「が」という接続詞がよくわからない意図で用いられ、文脈が捉えにくくなっている。
できるだけ早く関係者と調整を進めるべきと存じますので、担当者のスケジュールを確認しなければなりません。
「ので」という順説展開でしか使えない、汎用性の低い接続詞に置き換えたことで、文脈が明確になった。
2. 勇気を持って文を「。」で区切る

汎用性が高すぎる接続詞に多用を回避するもう1つの方法は、そもそも接続詞の数を減らすことだ。接続詞でダラダラと繋げていると、どんどん一文が長くなっていく。
一文が長すぎると、読者はどこで区切って理解すればいいのか迷う。特に、以下のような特徴がある文章は要注意だ。
- 句点(「。」)が極端に少ない
- 「が」「ですが」「ということで」といった接続詞が多い
- 途中で話題が変わる
冒頭の長文の例を見てみよう。
そのためには出席候補者の意見を聞きながら柔軟に対応する必要があると考えていますので、詳細が決まり次第改めて報告します。
一文が長すぎて、伝えたいことがぼやけている。これを、「一文一義」の原則で書き直すとこうなる。
出席候補者の意見を聞きながら、柔軟に対応する必要があります。詳細が決まり次第、改めて報告いたします。
こうすることで、柔軟に対応することと報告することが明確に区切られ、読みやすくなった。
改善後の例文
では、この2つの手法を活かして修正した、全体の文章を読んでみよう。
本日の会議は、参加者が少なかったものの、予定通り進行しました。ただし、議論が長引いたため、結論には至りませんでした。
その結果、追加のミーティングが必要となります。しかし、スケジュール調整が難航しそうです。一方で、早めに決定しなければなりません。まずは、関係者と調整を進める必要があります。そのために、担当者のスケジュールを確認します。
さらに、全員の都合を考慮すると、時間がかかる可能性が高いです。したがって、最適な調整方法を検討します。会議の結論が遅れると、業務にも影響が出るため、迅速な対応が求められます。
出席候補者の意見を聞きながら、柔軟に対応することが重要です。詳細が決まり次第、改めて報告します。
いかがだろうか。意味の切れ目で文が区切られ、今読んでいる箇所で汲み取るべき意図が明確に伝わる。そして、文の繋ぎ目には、"その結果、" や、"一方で、" といった、使用場面が限られる接続詞が用いられることにより、次に来る文の内容が予想できるため、読み手が迷子にならず、書き手の意図する通りに流れを汲み取れる。
長文から冗長性を無くす2つの手法のまとめ
読みやすい文章を書くには、次の2点を意識しよう。
- 「ですが」「けれども」などの汎性が高い接続詞を減らす
必要なら「一方で」「そのため」など明確な意味を持つ接続詞を使う - 勇気を持って文を「。」で区切る
- 一文が長くなりすぎないようにする
- 一文一義を意識して、一文に「一つの情報」だけを入れる
この2つを徹底すれば、情報量を削るのが難しく、長文になるのがやむを得ない文章であっても、確実に伝わりやすくなる。
もし「自分の文章は読みにくいかも?」と思ったら、一度書いた文章を声に出して読んでみよう。息継ぎをするところで「。」を打つと、適切な区切りが見つかる。
この2つの手法の素晴らしい点は、そうして後から修正するときでも、大きく文章構造を変更せずとも有効であることだ。
補足:さらに改善するなら
一応ここまでは、冒頭の例文から情報量を削れないという前提のもと、長文であることを許容した上で、改善点を紹介してきた。しかしながら、薄々感じていたとは思うが、冒頭に提示した例文はあまりに余分な情報が多すぎる。そして、先ほど紹介した2つの手法を取り入れて確かに冗長性は大きく緩和されたものの、結局何を伝えたい文章なのかは曖昧なままであり、ビジネス文書としてはまだまだクオリティが低いままである。
というわけで、最後に、情報量が削れないという前提を排除し、よりシンプルかつ伝わりやすい内容に修正し、ビジネス文書として適切な状態にする手法まで紹介したい。
PREP法
ビジネス文書で最も大切なのは結論ファーストである。そこで最も有用な文章の "型"がPREP法である。P(結論)→ R(理由)→ E(具体例)→ P(再結論)で書く文章形式である。
2つの手法による改善を反映した先ほどの例文を、PREP法を用いて結論ファーストの構成に修正する。
その上で、その結論の補足するにあたって重要な情報以外は削ぎ落とす。これを用いて追加の改善を行うと、次のようになる。
本日の会議は、参加者が少なかったものの、予定通り進行しました。ただし、議論が長引いたため、結論には至りませんでした。
その結果、追加のミーティングが必要となります。しかし、スケジュール調整が難航しそうです。一方で、早めに決定しなければなりません。まずは、関係者と調整を進める必要があります。そのために、担当者のスケジュールを確認します。
さらに、全員の都合を考慮すると、時間がかかる可能性が高いです。したがって、最適な調整方法を検討します。会議の結論が遅れると、業務にも影響が出るため、迅速な対応が求められます。
出席候補者の意見を聞きながら、柔軟に対応することが重要です。詳細が決まり次第、改めて報告します。
本日の会議では、結論に至りませんでした。追加のミーティングを早急に調整する必要があります。
業務遂行にあたって不可欠な意思決定であるためです。また、スケジュール調整に時間がかかることが予想されるため、迅速な対応が必要と考えられます。
つきましては、関係者の予定を再確認して日程を調整します。調整においては、出席候補者の意見に柔軟に対応できるよう準備を進めます。
早急にスケジュールを確定し、詳細が決まり次第、改めて報告します。
いかがだろうか。次のアクションが明確になり、何のために存在する文書なのかが明らかになった。ビジネス文書ではこれが非常に重要である。
P(結論)の部分にアクションの提案を配置して表現できるPREP法は、ビジネス文書んに非常に相性がいい。
加えて、P(結論)以外のパーツは、全てP(結論)を補足する役割のために存在するため、情報の取捨選択もしやすくなるというわけだ。
まとめ

今回は、情報量の削減が難しいケースを想定し、長文となることを許容する前提とした上で、その冗長性を無くす手法をメインテーマとして解説した。それを実現する手法は次の2つである。
これらは、文章の構造を大きく変更せずとも、冗長性を排除して伝わりやすい文章に修正できるという点でも魅力がある。
- 「ですが」「けれども」などの汎性が高い接続詞を減らす
必要なら「一方で」「そのため」など明確な意味を持つ接続詞を使う - 勇気を持って文を「。」で区切る
- 一文が長くなりすぎないようにする
- 一文一義を意識して、一文に「一つの情報」だけを入れる
そして、情報量を削減できる余地があるのであれば、PREP法を用いてP(結論)→ R(理由)→ E(具体例)→ P(再結論) の形に抜本的に文章の構造を修正し、P(結論)の説明をするうえで重要度の低い情報を削っていくことが有効である。